ライフスタイルホテルへと至る軌跡を辿る|NOHGA HOTEL UENO TOKYO 総支配人 長谷川圭祐さん

NOHGA HOTEL UENO TOKYOの総支配人長谷川さんの経歴と、ホテル業界での経験を通じた軌跡を紹介します。鉄板焼き職人からスタートし、高級ホテルでの経験を経て、現在のライフスタイルホテルへと至るキャリアパスを辿りました。サービスの在り方やお客さまとの関わり方の変化、そして今後の展望まで、長谷川さんの視点から見たホテル業界の多様性と可能性に迫ります。

ホテル業界のキャリアは鉄板職人から

   NOHGA HOTEL UENO TOKYOで総支配人を務める長谷川さん。まず最初に長谷川さんのこれまでのご経歴についてお伺いしたいです。

専門学校卒業後、初めての就職先がオランダ・アムステルダムでした。そこではキッチン担当だったので鉄板焼き職人としてがむしゃらに働いていましたね。宿泊業のキャリアの始まりになります。移住して2年が経つところで、たまたまご縁がありパークハイアットに入社しました。そこでは、ベルマンやドアマンを経て、最終的にレセプションを担当しました。レセプションという役割はお客さまと1番密に関わる機会が多く、その時にお客さまとして来ていたアマン東京の先輩からお誘いを受け、アマン東京へと転職することになりました。アマンでは、フロントサービス部門の管理を担当し、3〜4年ほど勤務しました。その後、野村不動産ホテルズの方からお声がけいただき、現在に至ります。

   数珠繋ぎでいろいろなご縁があったんですね。ハイラグジュアリーホテルで経験を積まれた後に、カジュアルホテルへの転職。サービスの視点も異なりそうですよね。

本当にたくさんの学びがあり、ゲストからも上司からも、さまざまなことを学ぶ機会がありました。ただ、これまで培ってきたサービスの力や接客の仕方、自分が学んできたものを、お客さまにどう伝えるか、転職当時は悩むことが多かったです。非日常的な場所から、普段のライフスタイルに近い場所へと変わり、お客さまの年齢や属性も変わって来るなかで私のサービスがどのように活かせるかという壁にぶつかりましたね。というのも、アマン東京やパークハイアットに泊まられる方は基本的に富裕層の方や、特別な1日を過ごされる方がメインとなってくるわけです。

   そうですよね。

私とは別の世界の方々にサービスを提供することが日常となっていましたが、その非日常的な環境で培った自分のスキルやサービスのレベルが、果たして自分が実際に暮らしている世界にどこまで通用するのか。より日常に近い場所にいらっしゃるお客さまに、これらのスキルをどれだけ伝えられるのか試してみたいという思いを持ち始めるようになってきたんです。

   なるほど。これまでの経験やスキルをしっかりと活かし、そこでお客さまと同じ目線で共感し合えるような空間を作り出したい、そんな思いになっていたということでしょうか。

そうですね。加えて、その頃はライフスタイルブランドが徐々に登場し始めていました。「ライフスタイルホテル」というカテゴリー自体に興味を惹かれたんです。そこで自分の能力も試してみたいと思いました。さらに、NOHGA HOTEL UENO TOKYOの開業のタイミングでもありました。新しい分野で、新しい場所で、より一層学びが多くあると考え、野村不動産ホテルズへの転職を決めたという経緯があります。

「ホテルのコンセプトに共感した人がここで働いています。」

   NOHGA HOTEL UENO TOKYOが開業されて1年後に入社されたと伺いました。ちょうどコロナ禍前の頃でしょうか。実際に働いてみてどうでしたか?

最初はギャップをすごく感じましたね。以前勤務していたホテルでは基本的にNGだけど、NOHGA HOTELではそれが良しとされることが多かったんです。

例えば、お客さまが荷物を持って入ってきた時に「お荷物をお持ちしましょうか」と声をかけるのがこれまでは基本でした。でも今のホテルでは、そこまでのサービスは必要ないというふうに、ある意味サービスに制限をかけているんです。

そういった違いから始まっているので、どうしてもギャップを感じざるを得ませんでしたね。でも確かに自分に置き換えてみると、ホテルにふらっと入った時に「お荷物をお持ちしましょうか」と言われたら、「いえ、大丈夫です」と多分言っちゃうと思うんです。

もちろん、こういったライフスタイル系のブランドでも同様のサービスを展開していたら、喜ばれると思います。ただ、より身近で、お客さまがラフに過ごせるこの場所ではそうした細やかなサービスよりも大事な振る舞いがあるんだと思います。このように、サービス面や視点で大きな違いを感じました。

   なるほど。従業員の属性やコミュニケーションスタイルも異なるのではないかと思いました。実際のところはいかがでしょうか?

そうですね、違いというより共通点があると感じています。以前働いていたパークハイアットもアマン東京も、それぞれ独自のホテルとしての軸がありました。例えば、アマン東京は「平和」を意味するサンスクリット語に由来し、その「ピース」という概念を中心に、どの施設でもまるで自宅に戻ってきたかのような感覚を提供しています。

このようなコンセプトを軸に展開し、そのコンセプトに共感する人々が働いています。どこのホテルでも、従業員は、ホテルの理念に共感して応募し、入社しているイメージがあります。現在の職場でも同様で、ありがたいことに私たちの地域連携というコンセプトや取り組みに共感して入社してきてくれます。

さまざまな場所を渡り歩いて来たからこそわかるのだと思いますが、どのホテルでも勤務する人々はそのホテルのコンセプトに何らかの魅力を感じて働いているのではないかと思いますね。

国内外のお客さまにサービスを届けていけるように

   なるほど。国内問わず、さまざまサービスの在り方を実際に体験してきた長谷川さんならではの気づきでもありますね。今後、長谷川さん自身がこういうチャレンジしていきたい、取り組んでいきたいことはありますか?

私たちNOHGA HOTEL UENO TOKYOは地域の魅力を発信することを軸に掲げています。特に、音楽やアートの分野に力を入れていて、これからは、もっともっと海外からのお客さまにアプローチして、私たちの取り組みを知っていただきたいですね。これまでもさまざまなイベントや体験を提供しているのですが、海外からの参加者がまだ少ない状況なんです。

   インバウンドで海外のお客さまも多いように感じますが、イベントの参加者は日本の方の方が多いんでしょうか?

そうですね。例えば、酒蔵まで足を運んで、見学したり、そこのお酒を一緒に選定したりして仕入れています。シェフもその酒に合わせて料理を試行錯誤して作っているんです。せっかく作ったものを、泊まりに来てくれている海外のお客さまにもっと間近で見せたり、体験してもらえたらいいなと思っています。

我々のコンセプトは「ここにしかない1日を作る」です。人生のほとんどは日常で成り立っていますからね。海外のお客さまがNOHGA HOTELに来て、そういう特別な体験ができる、というところまで持ちあげられたらいいなと思っています。

長谷川さんの経験とビジョンから、NOHGA HOTEL UENO TOKYOの独自性が垣間見えました。次は、このホテルの特徴や魅力をより詳しく探っていきます。NOHGA HOTEL UENO TOKYOが地域と共に創り出す「ここにしかない1日」とは、どのようなものなのでしょうか。